高木浩光さんへ、しっかりしてください

技術者としての良心に従ってこの記事を書きます。俺はセキュリティとプライバシーの人ではなく、JavaScriptとUIの人である。法律の勉強だって自分の生活と業務に関わりのある範囲でしかしないだろう。しかし少なくともJavaScriptやブラウザが絡むような部分については、確実に自分のほうが理解していると思っている。高木浩光さんが、あからさまに間違ったことを書いたり、おかしなことを書いていたりしても、徐々に誰も指摘しなくなってきたと思う。おかしなこと書いていたとしても、非技術者から見たときに「多少過激な物言いだけど、あの人は専門家だから言っていることは正論なのだろう」とか、あるいは技術者から見た時でも、専門分野が違えば間違ったことが書かれていても気付けないということもあるだろう。

もう自分には分からなくなっている。誰にでも検証できるような事実関係の間違い、あるいは、技術的な間違いが含まれていても、問答無用で拡散されていくのは何故なのか。気付くことが出来る人が実際に非常に少なくなっているのか、それとも、怖くて指摘できない人が多いのか。あるいは、気付いていてもそれを意図的に放置してしまっているのか。

2011年 10/20 GmailのスキャンとAdsenseの話

高木さんがハッキリと間違いでしたと書かないものだから、ずっと勘違いしたままの人もいるだろうし、実際に未だに引用している人もいるし「スコア:5, 参考になる」である。

"許された理屈も知らないのに「抵抗感が無くなった」というのは、単に周りの人に合わせているだけではありませんか? "
"こういう輩(素人レベルで語る専門家風)は危険。海外で許されている事案を引き合いに、それが許されている技術的・法的特徴を知らずして、うわっつら感覚で「許すべき」とか語り始める。それに影響されて、海外で許されていない技術方式を日本でやってしまう事業者を生み出す。ミログもその例か。"

ここまで高圧的に堂々と言われたら「あれちょっと変だな」と思っていても、指摘できなくなってしまう。誰でも簡単に検証できることを、実際に検証する人が全然いない。

少なくとも、Gmailはここ最近、複数のメールを横断してその人にとって重要なメールを判定するという技術を導入して、それを広告にも応用するということをやった。この変更はGmailの画面で告知されたし、ニュースでも広く取り上げられた。単純なメール本文からのコンテンツマッチから、その人の興味を分析して広告を表示できるように変化した。つまり、メールアカウントに対して、その人にとって何が重要か、何に興味を持っているのかということを分析して保存するようになっている(ちなみにこの部分はオプトアウト出来る)

まさに自分が拡散した誤情報を元にして記事が書かれてしまったのに、それを訂正せずにリンクを張っている。この記事が書かれた段階で、間違いを把握しているはずで、page=7に対するリンクである。

Yahooメールがメールの内容に基づいたインタレストマッチを開始するという発表を受けて、この話が蒸し返され、Gmailはブラウザ側でメールのスキャンを行っているという勘違いをした発言がいくつか見られた(そもそもAdsenseの仕組みを勘違いしている)
その際のやり取りはここから辿れる https://twitter.com/tekusuke/status/217800848292589568

その結果、クロサカタツヤ氏が記事を書いてくれた http://diamond.jp/articles/-/21547

失望したのは、高木さんが以下の発言に星を付けていたことだ。

そもそも高木さんが間違った認識のもとに人を罵倒したりしてて、その誤った認識が広まってしまっていたから、まずは正しい認識を広め、その上で世論を形成していかなければならないという話であるのに。

3/12 共産党のページのXSS

まあこれは割とどうでもいいのだけど、はてなブックマークボタンのトラッキング無し版が貼られているかどうか、ソースを読んでるはずなのに気付かなかった(と思われる)。

3/18 medibaの話

オプトアウトがどういう仕組みで実現されているのかを調べている最中。
http://twilog.org/HiromitsuTakagi/date-120318

postMessageでトラッキングidを問答無用で親フレームに送ってしまうという、問題のある実装になっていた。高木さんはソースを(かなり詳しく)読んでいたのに、このことに気付かなかった。

はてなTwitterの話

http://d.hatena.ne.jp/mala/20120524/1337839088

はてなに対しては「はてななんか倒産すればいいよ」とまで言ったのに、Twitterがトラッキング開始したときにはボイコットしなかった。

8/2 myappeeの話

https://twitter.com/HiromitsuTakagi/status/231045813353197571
"myappee に会員登録しようとすると、メールアドレス入力をfacebookから拾わせようとする。これでfacebookアカウントと紐付けようって寸法かな。"

何が「寸法かな」だ。ソース読めばどういう情報を取得しているのかは分かる http://cache.gyazo.com/eab496885723a4ac2537d743a9ee5c3a.png

これはFacebookJavaScript SDKを使って実装されていて、性別メールアドレス誕生日を取得するものだ。Facebookのidを取得して送信するコードは含まれていなかった。単に入力補完目的で使っている。高木さんは何のためにClient-side flowがあると思っているのか。サーバー側に不必要な情報を送ること無く、ブラウザ内で完結させることができるのが嬉しいのではないか。Facebookアカウントの情報取りたいんだったら、単に「Facebookアカウントをお持ちの方はFacebookアカウントでログイン出来ます」とやればいいだけだ。Facebookには本名を非公開にするような設定は無い。「Facebookでログイン」をやってしまえば、どうやったって、本名がついてまわってきてしまう。オプトはネット広告の会社である。必要なのは最適な広告配信のために必要な情報で、氏名など必要ないのだし、不必要な個人情報はリスクでしか無い。姓名判断で広告を出すわけではないし、マーケティングのための統計情報を作るのに氏名はいらない。

これは自分にとって、ゾッとする出来事だった。たとえプライバシーに配慮した方式で実装されていようとも、専門家がそれを汲み取ることが出来ないばかりか、むしろ逆方向の仮説を立てる。

高木さんほどの人が、この程度のことを察することが出来ないのは、おかしいと思った。あまりにもJavaScriptが読めないのであるか、それとも、意図的に多少おかしなことを書いて、どれぐらいRTされるのかとか、関係者が釣れないかとか、実験してるのではないかとすら思った。これを見たときに、もう本格的に何を言っても無駄だと思った。他社のサービス、どうせ終了するサービスであるし、こういったことを指摘したところで「と、見せかけて実はやっているのでは?」「メールアドレスで検索してFacebookアカウントを特定するのでは?」などと返されたら、自分はそんなことを知るわけがない。

8/11 Pathtraqの話

http://twilog.org/HiromitsuTakagi/date-120811

メッセサンオー事件に関して

https://twitter.com/HiromitsuTakagi/status/234138201185460225
"当時、原因として疑ったツールバーPathtraq」のサービス画面。URLにID・パスワードが含まれたアクセスがこのように記録されていた。"

大ウソだ。Pathtraqに記録されたURLにID・パスワードがは含まれていなかった。そもそも、これは事件が報道された日付であるし、Pathtraq経由で漏洩した疑いを持ったのであれば、日付をさかのぼった状態のスクリーンショット保全するものではないのか。
https://twitter.com/bulkneets/status/234146798472663040

大体、そういった問題について指摘して、改善を求めたのは、他ならぬ高木さん自身ではないですか(2009年02月01日の日記)。

そもそも高木さんがRTした元発言の人は、Googleツールバー経由でURLが漏洩したものだと考えていた。管理画面のURLがクロールされるに至った原因は、そもそも解明されていなかったはずだ。憶測で語られていたことが、時間が経つと確定した事実かのように、人々の記憶に刷り込まれてしまう。デマの良くあるパターンだ。俺なら絶対そんな発言をRTしない。

願うこと

技術的な間違い、事実関係の誤認、それを元にして他者を攻撃しているもの。また、セキュリティを生業にしている人間であれば、パッと見わかりそうな問題をスルーして別の箇所に注目しているもの。プライバシー・セキュリティに配慮した結果こうなったと推測できるものを、逆方向の仮説を立ててしまうものがある。単にいくつか印象に残っているものをいくつか挙げたわけで、特に広告業界の関係者から見た場合や、高木さんが炎上させてきた企業の当事者からすれば、もっとあるだろう。

高木さんがTwitterでRTする発言の中には、事実関係について致命的な誤認をしていたり、あるいは、真っ当な技術者であればいくらなんでもそんな推測はしない、といったものが多く見られる。最初は「可能性がある」といって毎回気を使って言及されていたものが、徐々に「こんなことが行われているに違いない」「こんなことが行われるに違いない」と変移していく。特にCCCとTポイントに関する問題は、時系列で順を追ってみていけば、高木さんが何をしてきたのかが分かるだろう。実際には、ユーザーのプライバシーに配慮した方法で実装されていたり、他のサービスと大差がないものをより悪質と言ったり、A社がやる分には良いけどB社がやるのはダメだ、といった具合にねじ曲げてしまう。

本当に、この程度のことであれば、技術者であれば誰でも分かるでしょ、気付けるでしょ、といったレベルのことが指摘されなくなってしまった。なぜ間違いが指摘されなくなってしまっているのか。単に皆自分の仕事で忙しいとか、専門分野が違うので自信を持って書けないということもあるだろう。別の会社の内部事情なんて分からないのだし、所詮外部からは正確なことなんて分からない、口をはさむべきことじゃない、と考えてしまうのか。でも「いや、それってフツーに考えてそんなことしないですよ」ぐらいのことが言えなくなってしまった。(しないと思ってたことが実際には行われていてびっくり、ということももちろんあるだろうけど)

恐れ多くて誰も口に出せない、絡んでも得をしない。目立ちたくない。いわゆる高木信者と呼ばれるような人たちから、こいつはプライバシーを軽視する人間に違いないとレッテルを貼られ、集中砲火を浴び、そうやって当事者や中の人が情報発信できなくなってしまう。情報発信がされないことで、より一層、技術を理解する人と理解しない人の間での認識にズレが生じて、悪循環になってしまっている。

自分はクライアントサイドの人間だ。望めばどんなコードで何が動いているのか検証できる世界、望めば拒否できる、望めば完全にブロックできる、そういう世界を望むだろう。コードを読まず、あるいは読めずに憶測で批判する人間が大半であれば、あるいは少数でも異常に声が大きい人がそういう事をやってしまえば、実現しない。セキュリティ上の問題があったとしてもそれを見抜くことが出来ず、プライバシーに配慮した実装がされていようとも、それを汲み取ることが出来ず。違いを分からずに「今すぐ中止せよ、さもなくば悪徳企業」と言わんばかりに、圧力をかけている。説明すればするほど、露出を増やせば増やすほど、高木浩光に目をつけられ、炎上リスクだけが増加する。実際に実装に関わっているような技術者は批判を恐れて表に出なくなり「そもそも安全な実装にするにはどうすればいいの?」といったことが語られなくなっている。安全にする方法を考えられない人たちは、単に中止せよと言うだろう。

ネットの広告も、ユーザーの行動分析も、このままではユーザーから見て、より透明性が低く、検証がしにくく、何が行われているか分からない方法で同じことが行われてしまうだろう。何が行われているのか隠したほうが得になり、単に「必要な範囲で第三者に委託します」などと書かれ、裏側でアクセスログを丸投げするような、よりユーザーから制御しにくい方法で同じことが行われるようになってしまうだろう。正直者が得をしない、誠実であろうとすれば損をする。あなたはそういう世界を望んでいるのですか?

この人の持ち合わせている知識からすれば、あからさまに間違いである、デマである、誤解である、邪推である、単なる信用毀損情報である、そうやって判定できるはずのことをRTして拡散する。個々のユーザーに判断できるだけの知識を与えることなく、判断力を持たない無知なユーザーを煽動して、誤解に基づいた判断で世論を作りあげようとする。そういう様子を見てきて、もはや高木さんは「先生」と呼べるような人間では無くなったのだと思った。同じリストに入れられることを不快に思うようになった。「高木浩光の同類」といった扱いを受けてしまうのが我慢ならなくなった。一体いつからこんなことになってしまったのか。「あの人は昔からああだから」とか「十年前から変わらん」と人によっては言うだろう。いやしかし、ここ最近は特におかしい。人格や性格のことを、とやかく言うつもりはない。自分だって人のことを言えないだろう。もう本当に、この人は完全に放っておいたほうが良いのかな、十年変わらないものが今さら変わるわけが無いのかな、とも思う。

高木浩光を批判することで所属している企業が目をつけられて面倒くさくなるという可能性も多分にあるのだし、何も変わらないのであれば、純粋な、技術的な間違いの指摘であろうとも、もはや書く意味が無くなってしまう。もうみんな、あの人のこと放っておきましょうと主張することになってしまう。それでも、何でこんなことを書いているのかといえば、高木さんが技術に関しては誠実な人間だと思っているからだ。その部分に関しては、高木浩光に絶大な信頼を寄せている、寄せていたからだ。

高木さんへ

  • 間違い、勘違いで書いたのであれば、より大きな声で訂正情報を流してください。
  • 間違った情報を根拠にして、個人や企業を批判したのであれば、その部分についてはきちんと謝ってください。
  • 真摯にセキュリティやプライバシーのことを考えている、技術者に対して、彼らの努力を無に帰してしまうような真似をしないでください。
  • より良い未来を作ろうとしている技術者が軽蔑されるような世界を作らないでください。
  • 正しい知識を広めようとしている人間に対して、レッテルを貼ったり、黙っていろなどと言わないでください。

単に誤解でした、勘違いでした、知識不足による間違いでした、で済む問題であれば、ちゃんと訂正すればいいのではないですか。妄想憶測で語られていたことや「可能性がある」といって語られていたことが、やがて既成事実化して語られてしまう。それはRTするより前に、まずは正しい事実を周知させることを優先すべきなのではないですか。もう目的を達成するためにはなりふり構わず、デマだろうが誹謗中傷だろうがお構いなしになっていませんか。自分も問題のある実装を批判したり、脆弱性に関する報告をすることがよくあります。しかし大抵の場合、必要以上に騒ぎ立てなくても、自分たちの作っているサービスに誇りを持っている人がいて、問題を認識してくれて、ちゃんと対応してくれます。たまに肉を奢ってくれたりもします。高木さんがこれからもずっと変わらないのであれば、あの人は技術者として信用できないのだと、間違いや思い込みで他人や企業を攻撃することがあるのだと、そうやって周囲の人間が接し方を変えていかねばならないのだと思う。ルール、法律、制度作りも何もかも、まずは正しい現状認識がなければ適切な世論形成が行わなくなってしまいます。新聞社の方、法律家の先生方、技術的な見識について間違いがないかどうか、複数の人から意見を聞くようにしてください。

もうずっと心のなかで引っかかっている。公開の場で主張すべきことを今まで主張してこなかったことを悔いている。目の前でいじめが行われているのを近くで見ているのにそれを制止できない、してこなかったような、本当にそういう心境になっている。

終わりに、面白おかしくネットバトル的な茶化し方をするのはやめてください。本当に深刻な問題だと考えています。